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東京地方裁判所 平成7年(ワ)9960号 判決 1998年1月23日

原告

石田ミネ

右訴訟代理人弁護士

西村寿男

長尾敏成

右訴訟復代理人弁護士

中田成德

被告

ヒロ・ハワイアン株式会社

右代表者代表取締役

山崎奉央

被告

山崎奉央

右両名訴訟代理人弁護士

西村國彦

河野弘香

清水三七雄

本山信二郎

船橋茂紀

松井清隆

主文

一  被告ヒロ・ハワイアン株式会社は、原告に対し、金五九八万一六五〇円及びこれに対する平成七年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ヒロ・ハワイアン株式会社及び被告山崎奉央は、原告に対し、連帯して金三一七万八四二〇円及びこれに対する平成七年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その二を被告ヒロ・ハワイアン株式会社の負担とし、その余を被告山崎奉央の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一六七〇万九四五〇円及びこれに対する平成七年六月三日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、①被告らが原告に対し虚偽の事実を申し向けてハワイの土地の購入を勧誘するという詐欺行為を行ったとして被った損害の賠償を求め、②貸付金の返還を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠の記載がなければ争いのない事実である。)

1  被告ヒロ・ハワイアン株式会社(以下「被告会社」という。)は、海外不動産の売買、仲介、賃貸及び土地の造成等を目的とする株式会社であり、被告山崎奉央(以下「被告山崎」という。)は被告会社の代表取締役である。被告会社は、ハワイ島にある住宅地「ハワイアンショアーズ分譲地」の販売の仲介業務等を行っていた。

2  被告山崎は、平成三年一一月五日に放映されたテレビ朝日の「ビッグ・マン」という番組に出演し、ハワイのコンドミニアムやハワイの土地について紹介した。

右のテレビ番組を見た原告は、ハワイの不動産に関心を持ち、被告会社に電話をかけたところから、被告山崎は、新潟の原告方を訪れ、ハワイの土地の購入を勧誘するようになった。その結果、原告は、後記のとおりハワイの不動産を購入した(甲三六、乙一二)。

3  原告及びその友人斉藤イコ(以下「斉藤」という。)は、被告山崎を通じて被告会社に対し、平成三年一一月八日、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件一の土地」という。)の共有持分二分の一ずつで購入することを依頼し、そのころ原告は、被告に登記費用を含め三〇六万五〇〇〇円を預託し、平成三年一一月二〇日、所有者であるコーテリー・コーポレーションとの間で代金三〇〇万円(斉藤の分も合わせると六〇〇万円である。)で売買契約を締結した。

4  同様に、原告は、被告会社に対し、平成四年二月一四日、別紙物件目録記載二の土地(以下「本件二の土地」という。)の購入を依頼し、同日七五〇万円を預託し、平成四年八月三一日、所有者であるゲイナー株式会社との間で代金七五〇万円で売買契約を締結した。

5  同様に、原告は、被告会社に対し、平成四年四月一三日、別紙物件目録記載三の土地(以下「本件三の土地」という。)の購入を依頼し、同日登記費用等を含め六三五万円を預託し、平成四年四月二四日、所有者であるゲイナー株式会社との間で売買代金六三五万円(登記費用等を含む。)で売買契約を締結した。

6  原告は、被告会社に対し、、平成四年九月二五日、別紙物件目録記載四の土地(以下「本件四の土地」という。)の購入依頼書を作成交付するとともに、五九八万一六五〇円を交付した。その後、平成四年一一月一六日、所有者であるゲイナー株式会社との間で売買契約書が作成された。

二  原告の主張の要旨

1  被告らは、原告に対し、虚偽の事実を申し向けて本件一ないし三の各土地を購入するように勧誘するという詐欺行為を行い、原告に右各土地を購入させて損害を被らせたものである。

すなわち、被告らが提示した購入価額はハワイの現地価額であると説明していたが、実際には現地価額の二倍から四倍の価額であった。また被告らが提示した価額で本件各土地を購入すれば、五年後には倍の価額になり、大きな利殖になると説明していたが、ハワイにおいては当時の不動産取引状況から五年間で土地の価額が倍となることはあり得なかった。

原告の被った損害は、実際の購入価額から鑑定に基づく評価額を差し引いた金額であり、その損害額は、本件一の土地については一六四万七一〇〇円、本件二の土地については五八二万四三〇〇円、本件三の土地については三二五万六四〇〇円である。

2  原告は、被告会社に対し、平成四年九月二五日、五九八万一六五〇円を貸し付けたが、その際、本件四の土地を原告が買い受けるとの形式をとり譲渡担保としてその所有移転登記を受けたものである(主位的主張)。仮に貸付金でないとしても本件四の土地の購入は、右1と同様の詐欺行為に基づくものであるから、被告らは、原告の被った損害を賠償すべきである(予備的主張)。

三  被告らの主張

1  原告の希望は、新潟は寒く原告自身が高齢でもあるので暖かいハワイに住みたいというものであり、本件各土地の購入は投資目的ではなかった。被告らが提示した本件各土地の価額は、売主の希望価額を伝えたに過ぎず、現地の取引価額であると説明したことはない。また、被告らは、原告に対し、本件各土地の価額が五年後には二倍になると説明したことはない。

2  原告は、本件各土地の購入価額は現地の取引価額の二倍ないし四倍と主張するが、比較すべきは、本件各土地の購入価額と、ハワイにおける取引価額に日本在住の英語の話せない日本人が被告会社に頼らずハワイ島における土地を購入した場合の諸費用を加算した金額である。被告会社は、ハワイにおける不動産の広告・宣伝をし、不動産の購入希望者の購入手続を代行して売主及び買主から手数料をとることを業としている。そのため莫大な広告・宣伝費を要し、現地駐在員を置き、物件の現地調査をするなどハワイの土地を商品化するためのコストをかけているのである。したがって、本件各土地の購入価額と現地での取引価額に差が生じるのは当然であり、本件各土地の購入価額が不当に高額であるということはできない。

3  仮に、被告らに現地での取引価額について説明義務違反があったとしても、原告は、本件各土地の取引の際、現地の取引価額がいくらであるか疑問すら持たず、調査もしなかった。したがって、九割の過失相殺がなされるべきである。

4  被告会社は、原告主張の金員を借りたことはない。かえって、被告会社は、原告に対し、平成五年八月三一日から平成七年一月三一日までの間に四回にわたり合計一〇五万六〇〇〇円を貸し付けている。

四  争点

1  被告らは、原告に対し、虚偽の事実を述べて本件各土地を購入させたか。

2  原告主張の貸付金の有無

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  争いのない事実及び証拠(甲三六、乙一二、証人斉藤、同小野、原告本人、被告山崎本人、文中記載の証拠)によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、大正一三年一一月一八日生まれの主婦で、八歳年上の夫と雑貨屋、砂糖の配給所などを経て、文房具店などを営んできたものであり、農業の経験はない。

原告は、前記のとおりテレビを見てハワイの不動産に興味を持ち、被告山崎が原告方を訪れた際、コンドミニアムを購入したいと考えていたが、同席していた斉藤が土地が儲かるから土地にしようと言い出して土地の購入の話しとなった。被告山崎は、居住用の建物を建築することを熱心に勧めていた。

(二) 本件一及び三の各土地は「ハワイアン・ショアーズ」という地域の宅地であり、本件二及び四の各土地は「ハワイアン・エーカー」という地域の農地である。

本件一の土地は、平成二年四月五日、コテリー・コーポレーションが一万二〇〇〇ドルで取得し、同社がこれを四万六一〇〇ドルで原告及び斉藤に売却した。

本件二の土地は、平成四年八月三一日、ゲイナー株式会社が一万三五〇〇ドルで取得し、同社がこれを五万七〇〇〇ドルで原告に売却した。

本件三の土地は、平成二年四月四日、コテリー・コーポレーションが九五〇〇ドルで取得し、その後カツマタ・ヒロマサに五万ドルで売却し、更に平成三年八月一九日にゲイナー株式会社に七万ドルで売却し、同社がこれを四万六七四四円で原告に売却した。

本件四の土地は、平成四年一一月一六日、ゲイナー株式会社が一万五〇〇〇ドルで取得し、同社から原告に四万七六九七ドルで名義が変更された(以上につき甲二七、二八)。

コテリー・コーポレーションのオーナー及び代表者は、被告山崎であり、ゲイナー株式会社のオーナーは被告山崎で代表者は小野実である。被告会社がコテリー・コーポレーションまたはゲイナー株式会社の物件を仲介した場合、被告会社は同社から三五パーセントから六〇パーセントの手数料をとっており、両社に利益が残らないということで税務署が査察に赴くということもあった(証人小野)。

(三) 本件各土地の鑑定評価額は、本件一の土地につき二万二〇〇〇ドル(平成三年一一月一五日当時)、本件二の土地につき一万三〇〇〇ドル(平成四年二月一五日当時)、本件三の土地につき二万四〇〇〇ドル(平成四年二月四日当時)、本件四の土地につき一万三〇〇〇ドル(平成四年九月一五日当時)である(甲一九ないし二二)。

平成四年二月一四日ころは、一ドルが128.9円であった(乙七の3の3)ので、一応この換算率を使用すると、本件一の土地は二八三万五八〇〇円、本件二及び四の各土地はそれぞれ一六七万五七〇〇円、本件三の土地は三〇九万三六〇〇円となる。

2  ところで、原告は、大正一三年生まれの主婦であり、英語を話すこともできず、ハワイにおける不動産の価格状況について知識を有する者ではなく、本件各土地の取引についてはテレビ等からの一般的情報以外は専ら被告山崎からの情報によって購入するかどうか判断しており、自ら独自に調査をしてはいない(原告本人)。

被告らは、現地価格ではなく売主の希望価格を伝えたに過ぎないと主張するが、前記のとおりコテリー・コーポレーション及びゲイナー株式会社から販売価格の三五パーセントから六〇パーセントの手数料を取得しているのであるから、当然現地価格に上乗せした金額で不動産を販売することになるところ、ハワイの物件を仲介し、購入者に代わって購入手続を代行すること等の被告ら主張の特殊な事情を考慮したとしても、売主の希望価額が著しく不相当な場合は、購入者の不測の損害の発生を防止するため、正確ではないにしてもおよその現地価額等の基本的な事項を説明した上で、購入の勧誘をすべきである。本件において、どの程度をもって著しく不相当な価額というのかその判断は困難であるが、諸般の事情を勘案して、少なくとも前記鑑定評価額の二倍程度の価額(登記費用等の諸費用を含んだ金額とする。)とするのが相当であり、被告らは右注意義務に違反しているので、原告の被った損害額は右の金額を超える金額と認めるのが相当である。

すると原告が被告らに預託した金額から鑑定評価額の二倍の金額を差し引くと、本件一の土地については二二万九二〇〇円、本件二の土地については四一四万八六〇〇円、本件三の土地については一六万二八〇〇円合計四五四万〇六〇〇円となりこれが原告の損害である(本件四の土地については後記のとおりである。)。

3 原告は、本件各土地の価格につき何らの調査をしていないから、原告にも過失があるものというべきであり、その割合は三割と評価するのが相当である。

よって被告らが負うべき損害額は三一七万八四二〇円となる。

4  原告は、被告山崎がハワイの土地の購入を勧誘した際、土地は五年後には倍の価額になると説明したと主張し、原告本人及び証人斉藤は同趣旨の供述及び証言をする。しかし、日本では不動産の価額は下がり始めており、ハワイにおいても五年後に倍の価額になるような経済状況にはなく、併せて被告山崎本人の供述及び証人小野実の証言に照らすと、原告本人の供述及び証人斉藤の証言をにわかに信用することはできない。

二  争点2について

1  証拠(甲三六、原告本人、証人小野)によると、原告は、被告会社に対し、平成四年九月二五日、五九八万一六五〇円を弁済期六か月後、その間の利息を一五〇万円と定めて貸し付けたことが認められる。

被告山崎は右の事実を否認し、また前記のとおり原告は本件四の土地の購入依頼書を作成しているので、本件一ないし三の土地と同様の依頼をしているとも考えられる。しかしながら、原告本人は右は貸付けであると供述していること、被告会社は、原告に対し、平成五年八月三一日二四万七五〇〇円、平成六年四月一四日二六万九五〇〇円、同年八月一九日二六万九五〇〇円、平成七年一月三一日二六万九五〇〇円を原告に支払っていること(当事者間に争いはない。)、被告会社の取締役であった証人小野は、右金員の支払につき、同人が原告のところへ行ったとき、原告は金を貸し付けているので金利分だけでも支払って欲しいと述べ、小野は帰ってきてから被告山崎にその件を話したところ、とりあえず利息だけでも払おうということになり、被告山崎の指示で小野が利息支払のため送金の手続をとった旨証言していること、本件四の土地の鑑定評価は一六七万五七〇〇円程度でありこれを取得して原告に譲渡担保の趣旨で差し入れたと解することも可能であること等から被告山崎の本人尋問の結果は信用できない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官佐藤康)

別紙物件目録<省略>

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